美容師の義務

今回は,美容師が守るべき義務(ルール)について説明します。
美容師試験では義務の内容だけでなく義務に違反した場合の処分についても試験では聞かれますので、要注意です。
この記事では
・美容師が守らなければならない義務(ルール)は?
・義務に違反したらどうなるの?
・再交付と再免許の違いってなに?
これらの疑問にお答えしています。

本ブログの情報提供者

本ブログの管理人は,熊本県弁護士会所属の弁護士です。

弁護士のほかには,外国人実習雇用士という資格試験に令和2年に合格しました。
また,理容学校にて関係法規を2年教え,現在は美容学校にて関係法規の科目を担当しています。
美容師試験の勉強のために本ブログを読むかたは「美容師法のポイント」をまずお読みください。
このブログ自体を初めて読まれる方は時間があれば「本ブログの説明」も併せてお読みください。

義務①衛生措置

美容師が守るべき義務の1つ目は、衛生措置に関する義務です。

美容師法のポイント「ポイント3 美容師法の性質」にも記載していますが、美容師法は、美容室を利用する人の公衆衛生の向上(=生命、身体、健康の安全を確保)のために規定された法律です。
そのため、一人一人の美容師が適切な衛生措置を行うよう義務(ルール)が設定されています。
その義務は以下の通りです。

①皮膚(ひふ)に接する布片及び皮膚(ひふ)に接する器具は、これを清潔に保つこと
②皮膚(ひふ)に接する布片を客一人ごとに取り替え、皮膚(ひふ)に接する器具は、客一人ごとにこれを消毒すること
③その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置

①や②は読んでいて「当たり前な話じゃん!」と思いますよね。
使われるタオルやハサミは清潔にしておいてもらいたいですよね。

では③はどういったものでしょうか。
まず、「条例」とは、各地方自治体(都道府県や市区町村のこと)の議会が作成したルールです。
その「条例」で衛生措置についての追加ルールを設ける場合があるということです。
法律だけでは対処できないものや、緊急性があるものは「条例」がカバーしていたりすることがあります。


例えば「施術の際、切った髪の毛がお客さんにつかないようにしましょう!」ということは美容師法に定められていません。
そのため美容師法だけでは、髪を切る際、お客さんに散髪ケープ(首付近から体全体を覆う例のあれ)をつけなくても美容師法違反とはなりません。
しかし、現実として散髪ケープは必ずつけますよね(というか、つけないと服が大惨事になりますよね)。
このように法律で定められてないけど、細かく決めていたほうがよいものが「条例」で定められたりしています。
実際に熊本県の定める条例では、「毛髪等がかからないよう客の身体を被う布は、清潔なものを使用すること」(条例第2条第3号)となっており、散髪ケープ等でお客さんの体を被う(覆う)ことが義務づけられています。
この規定に違反し、散髪ケープ等をつけないまま施術すると条例違反となり、③に違反したことになります。

上記①から③のいずれかに違反した場合には、都道府県知事(又は保健所設置都市市長)から業務停止処分を受ける恐れがあります。

義務②美容室以外での美容業の禁止

美容師が守るべき義務の2つ目は、美容所以外での美容業の禁止です。

先ほども話したように美容師法は、利用者の公衆衛生の向上(=生命、身体、健康の安全性を確保)を目的として規定されている法律です。
そのため,原則として(衛生基準が満たされている)美容所で美容業を行うことが義務付けれられており,美容所以外の場所で美容業をしてはならないとされています。
法律を作った人は,「美容所以外の場所では衛生基準が満たされているか不明で,美容を受けた利用者の健康が害される危険性があるかも・・・」と考えたわけですね。
ちなみに美容所が満たすべき衛生基準については,開設者の義務のところで説明します。

ただ,世の中,原則があれば例外がつきものです。
美容所で美容業をしなければならないのが原則でしたが,例外的に,政令で定めるところにより,特別の事情がある場合には,美容所以外の場所でも美容業をしてよいとされています。
そしてこの「特別の事情がある場合」として次の場合が予定されています。

疾病その他の理由により美容所に来ることができない者に対して美容を行う場合
婚礼その他の儀式に参列する者に対して,その儀式の直前に美容を行う場合
③①②のほか,都道府県,保健所設置都市又は特別区が条例で定める場合
の以上3つの場合です。

まず①についてですが,病気などで家や病院から動くことができない人は美容室に行くことができません。
でも,みんないつかは髪を切らなければなりません。
そこで,病気等の理由で家や病院から動くことができない人のために,例外的に美容所以外での美容業が認められています。

次に②ですが,これはイメージしやすいと思います。
結婚式に参列する新郎,新婦やその親族,友人らが髪を整えた上で参列しますよね。
特に新郎、新婦は、お色直しの時に髪型を変えたりする人もいます。
でも結婚式場以外の場所でしか髪型を変えることができないとなれば、往復する手間がかかってしまいます。
そこで、利便性のためにも例外的に儀式の直前であれば認めましょうというところですね。

最後に③ですが,先ほども出てきた「条例」で定められている場合です。
条例で定めることによって,美容所以外で切ることを認めるべき必要性が出てきた場合に柔軟に対応することができます。
例えば,熊本では,熊本地震があった際,震災被害にあった人のために、公共施設での出張の理容室・美容室がひらかれていました。
こういったものは①②には該当しないので,「条例」で定める必要がありますが,必要性が生じたときにスピーディーに対応することができます。

この「特別の事情がある場合」に該当しないにもかかわらず,美容所以外の場所で美容を行った場合には、都道府県知事(又は保健所設置都市市長)から業務停止処分を受ける恐れがあります。

義務③疾病の感染防止義務

美容師が守るべき義務の3つ目は、疾病の感染防止に関する義務です。

美容師が伝染性の疾病にかかっており,その就業(つまり働くこと)が公衆衛生上不適当な場合,美容師は,業務停止処分を受ける場合があります。

美容師は1日に何人ものお客さんと接しますよね。
その美容師さんが,インフルとか新型コロナにかかっていたら何人ものお客さんにそれが感染してしまい(インフルでいうパンデミック,新型コロナでいうクラスター),そこから多くの人に感染が広がってしまいますよね。
そのため,美容師が伝染性の疾病にかかっている場合には,その美容師が働くことは,利用者や国民の健康,生命,身体を害する恐れがあるわけですね。
そこで,そのような伝染性の疾病にかかっている美容師に対して,都道府県知事(又は保健所設置都市市長)業務停止処分をすることができます。

義務④名簿の訂正

美容師の義務4つ目は,名簿の訂正に関するものです。

美容師になるまで」で説明したように,美容師免許を受ける前には,名簿登録の申請をしなければなりませんでしたね。
その際,①氏名,②生年月日,③性別,④本籍地を届け出る必要がありました。
この届け出た4つの事項のいずれかに変更があった場合には,30日以内に届け出なければなりません。
届け出る先は,名簿登録の申請の時と同じように,厚生労働大臣が指定した試験研修センターです。
「本籍地」と「住所」の違いは,「美容師になるまで」でも説明してますし,上の画像にも書いてあるので,再度確認しておいてください。

美容師の義務,最後は,免許証を紛失した場合の対応についてです。

みなさんが美容師試験に合格して美容師免許を受けた後,「免許証」ももらうことができます。
この「免許証」を万が一紛失してしまった場合,「なくしました~」といって再交付を受けなければなりません。
再交付を申請する先は,厚生労働大臣です。
一度再交付を受けた後に,なくしていた免許証が見つかった場合には,発見されたほうを5日以内に返納しなければなりません。
まぁとりあえず美容師免許証は大切に保管して無くさないようにしてね,って話ですね。

ちなみに「再交付」と似た言葉で,「再免許」という言葉も後々出てきます。
このように似た言葉が出てきたらその時に一緒に覚えてしまいましょう。
「再交付」は上に書いたように,免許証をなくしてしまった場合に,新たに免許証を受ける場合の話です。
これに対して,「再免許」は一度免許を受けた人が,ルール違反をして免許取消処分を受けた後,美容師試験を受けることなく免許を受けることをいいます。
この違いをぜひ押さえておきましょう!

最後に

いかがだったでしょうか。
美容師になったあとに守らなければならないルールはたくさんあります。
美容師試験のための勉強というより、今後美容師になった後に守らなければならないものですので、身近なルールであると意識して押さえていきましょう。

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この記事を書いた人

宮田総合法律事務所所属弁護士(熊本県弁護士会・59900)
熊本生まれ。出水南→熊大附属→熊本→熊本(法・法科)→72期・熊本。
平成30年司法試験合格,平成31年・令和元年司法修習
令和2年1月熊本県弁護士会登録、同年5月第2回外国人実習雇用士試験合格
九州美容専門学校にて関係法規担当(令和2年~)

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